小山学園同窓会

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同窓会からのお知らせ・活動報告

2019.2.25 「挑戦者」

モノレールから降りた立った駅の空は快晴。立春を過ぎた郊外は日差しが暖かく、葉のない木立をすり抜ける風の冷たさが物悲しくもあった。冬から春へと移り変わりを感じられるこの日、ケジメを着けようとする男には打って付けの日にも思える。
男の名は≪村松竜二≫(東京工科専門学校 自動車整備科21期生 1994年卒業生)。同窓生の中でも異例のキャリアを持つ男。
1992年11月12日プロボクサーとしてデビュー2004年9月1日 に引退するまで12年間。元日本ライトフライ級1位の戦士。トラックにケンカ売って左手関節機能全廃してでも戦う姿は、かなうことであればリアルで見たかった。そんな≪戦う整備士竜二≫。今でも車の下に潜り自動車整備をしながら一般社団法人B-box代表理事 D&D BOXING GYM 会長、ブラインドボクシング関東支部 支部長。「ボクシング」を通して「青少年健全育成活動」「自立支援活動」「ブラインドボクシング」などの社会貢献に力を入れて活動している。

初めてジムで≪戦う整備士≫と会った時のことを思い出す。その真っ直ぐな視線の奥に燃える炎はリングを降りてから15年の時は流れとは思えない熱い男。情熱の塊のような人。彼が笑顔で「今度リングに上がりませんか?」の一言に小心者の私は「無理」と答えるのが精一杯。続けて「今でも自分が一番強いと思ってます」発言には、仰る通り、またリングに戻るんたろうなぁと感じていた。
そんな矢先に届いた彼からの知らせは≪引退式≫の言葉。何があったんだろうと考えたが、実直で熱い男の決断に詮索は無用。拍手とエールでその英断を称賛することが礼儀である。しかし≪引退式≫など誰もが簡単に出来ることではない。彼の人となりがあってこそ、いろいろな人が手を差し伸べくれたのだろう。式前の大切な時間を割いて数え切れないほどの人に挨拶と握手をしている姿から想像される。私の所にもやってきた彼。この日のために6キロの減量をしたそうだが闘志むき出しの姿が今も記憶に残る。

同窓生の村松氏1

いくつかの試合の後、≪村松竜二引退式≫が始まった。1分30秒×2ラウンドのエキシビジョンスパーリング。その勇士を目に焼き付けようとまばたきも忘れ見つめ続ける。一打一打繰り出される拳に彼の叫び声が聞こえた気がする。無限とも思えた戦闘時間は一瞬で終わり、拳を収めた彼の姿は居合抜きの達人が納刀する姿に重なり戦い終わった武士のようで、心澄み渡った清々しい潔さを感じる風が私の体を通り抜けていった。
そしてセレモニーもラストの≪10カウントゴング≫胸を張って正面見据える彼の姿に迷いは感じられなかった。若干距離があったのでよくは見えないが目から何かが流れているように見える。気付けば私が泣いていた。退場するときに竜二コールをするべきであったが「ありがと~っ」そう声をかけるのが精いっぱい。昔の首相ではないが「感動した!」このセリフが似合う場面だった。スポットライトを外れリングを降り出口に向かう彼のシルエット。普通なら去っていく印象が強いのであろうが、次のステージに旅立つ姿、新たな冒険に挑む猛者に見えたのは私だけではないだろう。

同窓生の村松氏2

会場を後にしてモノレールの車窓に流れるショッピーングモールの風景を見ながらひとり思う。元日本ランカーの整備士。そんな同窓生がいることが誇らしく思えてきた。
≪戦う整備士≫からブラインドボクシング全てを懸けた村松竜二は生業であった
≪整備士≫も同時に引退し新たな世界に飛び込んでいく。

期待しようじゃないか彼の挑戦に!
応援しようじゃないか僕達の同志を!
そしてこれからも≪村松竜二≫ファンであり続けよう

ビルの窓ガラスに反射した光が煌めく瞬きが、彼の未来のように思えて、私の思いにオーバーラップした。

Rex